「Google翻訳でいいじゃない」世界最高齢プログラマー若宮正子さんの英語術

Google翻訳 同時通訳 山下えりか

 

 こんにちは、英語同時通訳者オンライン英語・通訳講師の山下えりかです。

 

 先日東洋経済ONLINEで「グーグル翻訳で世界と仕事する84歳の英語術」という記事を読みました。記事の語り手は84歳の現役プログラマーとして知られる若宮雅子さんです。英語に関する若宮さんの考え方は私がこのブログで展開してきた英語学習論とは一見異なるように見えて、重要な要素の多くは共鳴するものが多いと感じたのと、「英文法不要派」や「単語だけで会話はできる派」に誤解を与えかねない、解説が必要な部分もあると感じたので、今回はこの記事を考察したいと思います。

 

 若宮さんは81歳のときにシニア向けゲームアプリ「hinadan」を開発。アメリカ・アップル本社の世界開発者会議に招待され、ティム・クックCEOに絶賛されたことで一躍脚光を浴びました。海外の会議に招かれ講演をすることもあることから、英語が得意だと思われがちな彼女ですが、実は英語は苦手なのだそうです。

 

 そんな若宮さんが海外と英語で仕事をする際には、グーグル翻訳を使っておられるとのこと。これを読んで「Google翻訳なんてめちゃくちゃで役に立たない。ビジネスパーソンとして不適格」などと思った人は、数年前に使ったきりGoogle翻訳に触れていないのではないでしょうか。そんな人は今一度、Google翻訳を使ってみることをおすすめします。AIのディープラーニングが始まって以来Google翻訳は驚くべき成長を遂げていて、今ではとても馬鹿にすることはできないレベルにまでなっています。(実は私もたまにGoogle翻訳を開いてはあれこれ実験をしています。コツがつかめてくると面白いのです。)

 

 ただし記事の中で若宮さんが指摘している通り、Google翻訳で正しい訳を得るためには英語の言語的性質を理解し、AIが訳しやすい日本語を書く能力が必要になります。若宮さんはこの能力に長けておられるために、ご自身の日本語をGoogle翻訳を使って「9割は合っている。伝えたいことは伝わっている」英語に変換することが可能なのです。

 

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 記事の中で若宮さんは中学時代の英語の先生について触れられています。以下に若宮さんのお話を引用します。

 

 私が通っていたのは、兵庫県の田舎の中学校。英語のネイティブスピーカーはまわりにおらず、先生の発音もめちゃくちゃでした。でも、その先生は英語を学ぶ上で、一番大事な、英語と言う言語の根底にある「考え方」を教えてくださったのです。

 

(中略)

 

 英語はまず、主語が最初にくる。...主語から始めないと、文章が成り立たないのです。「ぼんやりとした想いを伝えようとする、源氏物語の世界とはちゃうんや」と先生は教えてくださったのです。曖昧な日本語とは違うんですね。

 

 この先生の教えから、「正確な英語にするためにはどんな日本語を書けば良いのか」という想像力や日本語力や文章力を育てた結果、若宮さんはGoogle翻訳で仕事でも十分通用する正確な英文を作ることがおできになるのです。

 

 もちろん英語で仕事をする上では英語で全てを処理できるに越したことはありませんが、便利に使えるものがあるのですから使うべきだと思いますし、それを使いこなすだけの技術があるのですからそれは素晴らしい力です。若宮さんの場合は「英語を使うこと」は苦手だけれども、英語と言う言語への理解と確かな母語の力があり、その能力をGoogle翻訳に乗せることで「英語が使える」と同等の力に変換されています。

 

 この若宮さんのお話は、技術とともに言語の使い方も変化しているのだと改めて認識する良い機会になりました。確かにこのやり方であれば、「英語を使うのに文法は不要」とも言えるでしょう。ただしそれには、「英語と日本語の違いを正確に理解し、自動翻訳で正しい英語を導き出せる日本語の文章を書けること」という条件が付きます。ただ何となく書いた文章をコピペすれば良いという話ではありませんし、翻訳された英語が正しいかどうかをチェックできる程度には英文法の知識は必要です。ちなみに若宮さんは英検準1級をお持ちとのこと。必要最低限の英文法の知識はおありなのだと思います。

 

 もう一点、記事の中で「想像力で乗り越えちゃえ」と小見出しになっている箇所についても触れたいと思います。

 

 これまで私はこのブログで、「聞き取れた単語から勝手に思い込みでストーリーを作り上げることはNG」と書いてきました。しかしながら、彼女のやり方には賛成です。

 

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 これはなぜかと言うと、ここで若宮さんの仰る「想像」とは、「状況を論理的に分析し自分の経験や知識と照らし合わせて総合的に判断すること」すなわち、「エデュケイテッド・ゲス(educated guess)」と呼ばれるものだからです。これは私たち通訳者も「話の先を読む」ために使う技術で、ただの「思い込み」とは異なります。知識、経験、論理のすべてに支えられた「想像力」もまた、試行錯誤を繰り返しながら鍛え上げる能力なのです。

 

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 この記事は若宮さんのご著書『独学のススメ - 頑張らない!「定年後」の学び方10か条』の抜粋です。記事を読んでもっと若宮さんの言葉を読んでみたくなり本を購入しました。これまでに多くの経験をされてきた方ならではのお話もある一方で、若宮さんご自身はとてもチャーミングで若々しい方で、どのお話も読んでいてワクワクします。私もこんな風に年をとりたいと思わせてくれる素敵な一冊です。

 

 

 技術の進歩にともない、英語との付き合い方も多様になって行きます。「どうせAI翻訳なんて」と言う人はまだまだ多いですが、何事も否定から入らずに「まずやってみて、次を考える」を大切にして行きたいと思わせてくれた出会いでした。

 

 

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