【お悩み相談】挫折だらけの通訳学校・通訳訓練を諦めずに続けるコツは?

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 こんにちは、札幌在住の英語同時通訳者オンライン英語・通訳講師の山下えりかです。ご訪問ありがとうございます。

 

 先日、通訳学校に通いながら当通訳講座を受講されている受講生の悩みを聞く機会がありました。内容は色々とありましたが、どの悩みも根底にあるのは、挫折だらけの通訳訓練を続けるための「気の持ち方」の問題です。そしてこれは、通訳訓練を受けていた当時の私自身も含め、通訳者を志す人の多くに共通する問題でもあります。

 

 これまでの経験から、私のオンライン講座の受講生を含め同じ志を持つ人たちの目に触れることの多いこの場所では、「ひとりの悩みはみんなの悩み」と私は認識しています。ここで誰かの悩みと私の経験をシェアすることで、また別の誰かの悩みの解決のきっかけになったり、気持ちが軽くなったりするヒントにしていただければと思っています。

 

 今回は、過酷な通訳訓練をやり遂げるためのメンタルを保つために私が実践していたことを紹介します。

 


 

✔ 大切な「心構え」


 通訳訓練の負荷を減らすために一番効果的なのは言うまでもなく、実力をつけることです。しかし実力は一朝一夕で身につくものではありません。サイマルアカデミーで通訳訓練を受けていた当時の私は自分の成長速度にギリギリ追いつかないくらいの速度で進級していたため、実力的にはいつもあっぷあっぷでした。

 

 最初のクラスの準備科(通訳I)からそんな状態でしたから、せめて入学を決めた時の気持ちを見失わないために、私は早いうちから自分の中にいくつかの指針を作りました。その指針、すなわち心構えこそが、実力を伸ばす以外では私の知り得る限り最大の「通訳訓練を続けるコツ」です。その内容は以下のとおり。

 

 

1.学校の方針や講師の先生方の言うことを愚直に守りついて行く。特に小松先生の言うことには一切の疑問を持たない。

 

参考:【私が通訳になるまで40】積み重ねの大切さと恩師の教え

 

2.学校にはいかなるプライドも持ち込まない。

 

3.クラスメイトと自分を比べない。人の実力に嫉妬しない。自分が一番の若輩者という意識を常に持ち、クラスメイトの実力を正面から見つめ、敬意を払い、学ぶ。

 

4.英語を好きでい続けること。

 

5.「低空飛行でもいい。墜落しないことが大事。」

 

6.明確な目標を持ち、気持ちは遠くを見据え、焦らず目の前のことに地道に取り組むこと

 

 それでは、ひとつひとつ細かく解説します。

 

1.学校の方針や講師の先生方の言うことを愚直に守りついて行く


 ひとつ目は、サイマルアカデミーに入ると決めた時、一番最初に作った決め事です。これは私の高校時代の経験に起因します。

 

 以前の記事(【私が通訳になるまで3】高校受験から留学まで)でも少し触れましたが、私の通った高校はいわゆる進学校で、高校入学初日から大学受験の話をされるような学校でした。近隣に似たような学校は数校あり、大抵は大学受験のために進学塾を黙認または推奨する学校が多数派の中、私の高校は進学塾反対派という方針の学校でした。

 

「分からないことがあれば学校で先生たちに聞け。塾のせいで学校の勉強を持て余すくらいなら塾になんか行くな。」

 

と、1年生の頃からよく言い聞かせられていました。その言葉通り、先生方は質問に来る生徒には真摯に対応していたと記憶しています。

 

 こう他人事のように言うのは、私は学校が一番力を入れていた数学で1年生当初から躓き落ちこぼれ、高校留学を契機に英語の成績だけ伸ばして進学も国外というイレギュラー分子だったので、先生方のお世話になることも塾に行くことも無かったのです。これが結果的に今に繋がっているので、自分の選んだ道が悪かったとは思っていません。

 

 しかしそれはそれとして、卒業の頃になって気づいたことがありました。先生方の言う通りに塾へ行かず学校の勉強を優先し、分からないことは学校で先生方に聞く、というやり方をしていた生徒の方が、高確率で希望の進路に進んでいたということです。

 

 なるほど伝統を謳う学校の方針には確固たる根拠があり、守れば相応の結果も付いてくるのだと納得しました。あれに気づくのがもう3年半ほど早ければ、今は全く違う人生だったかなと思ったこともしばしば(笑)。

 

 通訳学校という場所がとても特殊な場所で訓練は過酷を極めるという話は、サイマルアカデミーに入る前に集めた情報から知っていました。それでも通訳者になりたい、サイマルで同時通訳の訓練を受けたいという思いは止まらず、入学を決めた時に頭をよぎったのはこの高校での経験でした。

 

 この経験から「通訳ならサイマル」と言わせるだけの伝統と実力を兼ね備えた通訳学校に入るのならば、サイマルアカデミーでは最初から最後まで先生方の言うことに一切の疑問を持たず、良いと言われた通りに素直に学ぼうと心に決めました

 

 サイマルアカデミーの先生方は、サイマルアカデミーを卒業して現役の通訳者として活躍されている方ばかり。その先生方がご自身の経験から必要だと仰るものに無駄なものがあるはずがありません。経験不足の自分が未熟な判断力であれこれ考えるよりも、まずは経験豊富な先生方の助言に従うのが正解だと考えました。

 

 こういう考え方は狂信的と思われるかもしれません。その通りです。サイマルアカデミーに通っていた頃の私は、狂信的なサイマル信者でした。きっと今でも、それを信じる気持ちは変わりません。盲目的にサイマルアカデミーを信じて進んだことが最終的に卒業という結果に、そして今の私自身につながっているのだということに、今でも疑念の余地はありません。

 

2.学校にはいかなるプライドも持ち込まない


 2つ目。実はこれがサイマルアカデミーでの私が発揮した一番の強さでした。「失うものも傷つくことも何も無い」という強さです。

 

 実際20代前半当時の私は経験も無く、英語力も(通訳学校的には)人並みレベル、通訳スキルは素人同然、知識は全然足りない、ナイナイ尽くしでした。

 

 下手くそな訳を鋭い言葉で酷評されても、知識不足でトンチンカンな訳になって咎められても、すんなり自分の至らなさを認め次につなげることができました。

 

 これはあくまでも私の私見ですが、守りたいもの(実績や実力)がある人の方が、何も持たない人よりも実力面で有利な一方、叩かれた時に折れやすい印象でした。それで辞めてしまった人も数人見ています。

 

 通訳訓練において「何も持たない」は苦労の最大の要因であると同時に成長の最大の武器であり、技術や知識の吸収力を高める原動力となります。このため、「学校にはいかなるプライドも持ち込まない」と決めていました。

 

 ただし学校から外に出たらプライドを持つことも大切です。プライドは自信と表裏一体です。通訳学校では「できない子」でも一般的に見れば高い英語力を持っていることにきちんと自信を持つことで、精神のバランスを保つことも必要です。

 

 

3.クラスメイトと自分を比べない


 通訳訓練開始後の早い時期に、私にはひとつ心に決めたことがありました。 

 

「人と自分を比べるのはやめよう。比べて落ち込んでも何も良いことはない。」

 

 当時のクラスメイトたちは全員が全員、あまりにも優秀な人たちばかりでした。その人たちと自分を比べて落ち込んでいては、身がもたないとすぐに感じました。そもそも通訳学校は誰かと競う場ではなく、自分が成長して行く場所だと考えるように努めました。

 

 自分に実力がないのは自分の問題。人の実力に嫉妬しない。自分が一番の若輩者という意識を常に持ち、クラスメイトの実力を正面から見つめ、敬意を払い、学ぶ。クラスメイト全員が自分の先生だという気持ちで学んでいました。

 

 

4.英語を好きでい続けること


 4つ目は、英語好きでい続けること。「英語が好き」が一番の動機で原動力だった私にとって、英語を好きでいることは何よりも大切なことでした。

 

 しかし過去の記事(【私が通訳になるまで24】英語が好きで通訳学校に通う際の注意点と通学の意義

)で書いた通り英語が怖くなり触れるのも億劫になってしまった時期もあったほど、過酷な通訳訓練は私の英語愛を激しく揺さぶりました。笑って「英語が好き」と言えない時期もありました。好きと言えるほどきちんと向き合えていない気がして、英語そのものに対し自信喪失気味でした。

 

 通訳訓練の中で英語を好きでい続けることは、簡単なことではありません。通訳訓練が進むにつれ、その中で英語を好きでい続けるのは難しくなって行きます。

 

 しかしだからと言って諦めてしまっては、一番の原動力を失うことになります。「英語が好き」で始めたのなら、英語を好きでい続けなければいけません。

 

 そこで私が実践したのは、好きな映画や音楽などを使い、リラックスして英語を楽しむ機会を持つことでした。あえて通訳から切り離して英語を純粋に楽しむ時間を作ることで、英語そのものに対する「好き」は何とか維持できました。

 

 

5.「低空飛行でもいい。墜落しないことが大事。」


 5つ目。「低空飛行でも良い。墜落しないことが大事。」

 

 これは私が作った指針ではありません。通訳科後期(通訳4)時代にお世話になった先生が、通訳をする際の心構えとしてよく語っていた言葉です。

 

 苦しかった後半の2年間の入り口あたりでこの言葉に出会いました。通訳作業そのものだけでなく、通訳訓練や、日常の様々なことに当てはまることだと思います。

 

 これもまた苦しかった訓練時代の私を支えてくれた大切な合言葉でした。

 

 

6.気持ちは遠くへ、目線は足元へ


 通訳訓練における最大の敵は「焦り」です。先述の「嫉妬」の正体もこの「焦り」であることが多いと言えます。

 

 最初に書いた通り、通訳技術は一朝一夕で身につくものではありません。通訳技術の向上や習得は、最短でも数か月、通常数年単位で考える必要があります。「焦り」に足をとられてしまうと、全てが空回りしてしまいます。

 

 「焦り」のトラップにはまらないようにするためには、目標を明確にすることが必要です。そしてその目標に向かってただひたすら地道な努力を積み重ねましょう。

 

 例えば私の場合、リテンションも短文の通訳もまともにできなかった頃から、「サイマルアカデミーを卒業して同時通訳者になる」と決めていました。そして「今はできないけれど1年後には今やっていることはできるようになっている」「ひとつずつクリアして行けば数年後には同時通訳もできるようになる」といったように、「今できないこと」ではなく、「1年後や数年後にできる予定のこと」を念頭に、その時々で必要なことを考え実行するようにしていました。

 

 通訳訓練が思うように進まずに焦ってしまう気持ちはよくわかります。しかしそれをぐっと堪えて目の前の「やるべきこと」に集中する精神力もまた、通訳者に必要な資質と言えます。

 

 

✔ おわりに


 以上、私がサイマルアカデミー生時代に守っていた、通訳訓練を最後まで続けるための心構えでした。

 

 通訳訓練を諦めずに続けて通訳者という目標に近づくためには高い技術しなやかな精神の両方が必要です。私の講座の受講生を含め、通訳者を目指して学んでいる人たちには、その両方を同時に育てて行くために、焦らず、思いつめ過ぎず、地道が唯一の近道であることを忘れずに日々学習を続けてほしいと願っています。

 


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