【コラム#19】日本の英語教育が生んだ最高傑作PPAP

 こんにちは、同時通訳者英語指導者山下恵理香です。

 

 

 日本人が英語ができない言い訳として常に槍玉にあげられる日本の英語教育。これはただのイチャモンであると、【コラム#2】「英語力=英会話力」ではない【コラム#3】「英語教育のせいで日本人は英語ができない」は本当なのかで私の思うところをお伝えしました。今回はその日本の英語教育が生んだあの最高傑作について語りたいと思います。

 

 その最高傑作とはずばり、今年世界中で話題になったピコ太郎さんのPPAP。ふざけてなどいません。大真面目です。

 

 

 

 私がPPAPを日本の英語教育が生んだ最高傑作だと思う理由は、この2つのフレーズ。

 

 “I have a pen.”

 “I have an apple.”

 

 この2つは日本の英語教育的観点から考えると、数ある英語のフレーズの中でもずば抜けて特別です。

 

 まず”I have a pen”について。

 

 「英語が苦手」と堂々と開き直る日本人の多くの人が勉強としての英語を語る時、「英語は“This is (a) pen”までしかわからないんだよね~」という自虐発言をよく聞きます。つまり「英語は中1の初期の時点から分からない」という意味なわけですが、それでも誰もが覚えている例文、”This is a pen.”

 

 日常会話として考えると、「これはペンです」っていつ使うんだろうって突っ込みたくなる内容ですし、これもまた「日本の英語教育は実践的でない」とイチャモンをつけられる代表格です。

 

 しかし同時にこれは日本で義務教育を受けた人であれば誰もが覚えていて、「正しいと自信を持って使える」数少ない英文であるとも言えます。PPAPでは”This is a pen”ではなく”I have a pen”ですが、一般動詞haveという単語と用法はthis isよりも先に出てくることの多い基礎文法です。“This is a pen”と並んで英語が苦手な日本人でも自信を持って使える基本フレーズのひとつです。

 

 次に”I have an apple”について。

 

 PPAPの動画では”an”の箇所が”a”に聞こえてしまうのが少々残念ではありますが、これもまた上記と同様に中1初期に学習する基礎文法です。「初めて文中に出てくる単数の(可算)名詞」の前には冠詞”a”または”an”をつける、と教わったことを覚えている人も多いでしょう。

 

 この文法のルールは冠詞に続く(可算)名詞の最初の文字が母音(aeiou)なら”an”で、

子音(母音以外の文字)なら”a”を使うというものです。そして”an”を使う単語として最初に登場する単語が、多くの場合appleです。そのため”I have a pen”と同様に”I have an apple”も、英語学習のかなり初期の段階で誰もが読み、書き、読み上げの練習をしているフレーズです。

 

 どちらの例文も、確かに日常会話で使うことはほとんど無い表現でしょう。しかし英語を学び始めた初期にしつこくやったこのあたりの基礎文法は、英語が苦手、できない、嫌いと言っても義務教育を受けた人ならば頭のどこかに残っています。

 

 英語がトラウマな人も大嫌いな人も絶対に分かる英文のみで構成された歌詞。それこそがPPAPが日本国内でウケた要因のひとつではないかと思います。

 

 しかしこれはあくまでも日本国内の事情で、PPAPが世界でウケた理由は別にあると思います。

 

 私が思うにその大きな理由のひとつは、センテンスがシンプルなだけでなく、文法的に正しかったからです。日本人の英語下手は世界でも有名です。それが世界の人々に「笑われた」のではなく、世界中の人々を「笑わせて」多国籍のユーチューバーがカバーをするほどにヒットしたのはやはり、英語としても完成していたからだと思うのです。

 

 もちろん世界的大ヒットの理由には、ピコ太郎さんのキャラクターやパフォーマンス、

言葉のリズムや音楽性と言った諸々もあると思いますが、ここではあくまでも英語に的を絞りました。このブログはそういうブログですので(笑)

 

 話を元に戻します。なぜPPAPが「日本の英語教育が生んだ最高傑作」なのか。

 

 先述の通り”I have a pen”と”I have an apple”は、中1英語の例文の代表格です。そして、「そんな例文を使うから日本人は英語が使えない」と言われる代表格でもあります。しかし同時に、英語が苦手な日本人の大多数が「間違っていない」と自信を持って使える希少な英文です。

 

 PPAPはピコ太郎さんが日本で英語教育を受けた人で、英語が苦手な日本人相手にネタを作る人だったからこそ生まれた作品です。そして中1初期のあの単純な英語だけでも世界と繋がれるんだと証明してくれた作品です。この点においてPPAPは、まさに日本の英語教育を背景とした最高傑作なのです。

 

 もちろんPPAPだけでは会話はできませんし、文法事項として学ぶべきことはたくさんあります。しかしPPAPの動画とそれに対する世界の反応を見ていると、コミュニケーションて言葉だけじゃないんだよなぁと改めて考えさせられます。

 

 極限まで短くシンプルかつ完璧な文法で、どんな人の耳にも易しく届くこれらのフレーズ(&pineapple)だけで、これほどに多くの人を笑わせ世界中にリーチを広げたピコ太郎さんの才能に心からの賛辞を。

 

 ね、日本の英語教育って素敵でしょ?

 

 

 同時通訳者山下恵理香による英語指導の詳細はこちらのページをご覧ください。

 

 このコラムは当サイト併設の「同時通訳者Erikaのブログ」に掲載している英語学習関連記事を再編集したものです。同ブログでは英語学習以外のトピックの記事も公開しています。併せてご利用くださいませ。

 

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