【通訳訓練】「リテンションができない=記憶力が悪い」ではない|リテンション習得に必要な4つのスキル

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 こんにちは、英語同時通訳者オンライン英語・通訳講師の山下えりかです。

 

 「聞いた話を一言一句正確に記憶して(リテンション)、一言一句正確に再現する(リプロダクション)」は、通訳の基礎技術です。正確な通訳ができるかどうかはこの技術の精度にかかっていると言っても過言ではないほど重要な、通訳者の必須スキルです。

 

 リテンション&リプロダクションについては下記の通り、これまで様々な角度から記事を書いてきました。

 

 

 それでもなお、リテンションの習得が通訳学習者の悩みの種であることは変わりなく、オンライン講座の受講生や記事へのコメントからは「リテンションが苦手です」「記憶力が悪くて悩んでいます」という声が多くあがっています。

 

 しかしその度にお伝えしているのが、「リテンションができないのは単純に記憶力だけの問題ではありませんよ」ということです。

 

 今回は「リテンションができない=記憶力が悪い」という多くの人が持ってしまいがちな誤った認識に焦点を当て、リテンションという技術そのものを分析し、この技術の習得に必要な能力を整理したいと思います。

 

 


 

✔ リテンションの構造


 この記事の執筆にあたり、よりリテンションの構造を分かりやすくするために図を作りました。まずはこちらをご覧ください。

 

 

 この図からもお分かりの通り、リテンションに必要なのは単純な記憶力だけではありません。リテンションとは、高度に鍛え上げられた様々な能力を必要とする総合的なスキルなのです。

 

 それでは、それぞれ細かく見て行きます。

 

 

✔ 相対記憶


 私がここで「相対記憶」と呼ぶのは、「メッセージの意味と内容を正確に記憶するための力」のことです。単語や単語の並びのような「形という絶対的なもの」でなく「意味や内容」を「読解や知識」と紐づけて記憶する能力なので、「相対的な記憶力」と呼んでいます。

 

 図解の通り「相対記憶」には以下の2つが当てはまり、この力を鍛えることは「意味や内容を変えずに表現する(パラフレージング)」の強化につながります。

 

  • 意味の記憶(読解力)
  • 情報の記憶(知識量)

 

 

✔ 意味の記憶(読解力)


 意味の記憶に必要なのは読解力です。人間は通常、自分に理解できたことしか記憶に留めておくことができません。つまり読解力が不足していると、話の内容が理解できず、記憶することもできなくなってしまいます。

 

 非常に多くの人が、「理解する」を「聞いた単語すべてを知っている」と誤解しているようです。しかしそれはただ「知らない単語がない」というだけで、「内容が分かっている」とは全くの別物だと認識する必要があります。

 

 通訳をするため、あるいは通訳のためのリテンションをするために必要な「理解」とは、「聞いた話を自分の話のように誰かに語れる」だけでなく「そこまで聞いた話から一歩先の話をかなりの正確性をもって予想ができる」というレベルの「理解」です。表面的な理解だけでは通訳にもリテンションにもとても足りないという認識を持ちましょう。

 

 この読解力を身につけるためには、日々時間の許す限りたくさんの人の話を聞いたり、ものを読んだり、見たりしながら、内容の正確な把握と論理力を育てることが必要です。

 

 

✔ 情報(内容)の記憶(知識量)


 情報(内容)の記憶に必要なのは話の内容に関連する知識です。前項の「読解力」では「人間は通常、理解できたことしか記憶に留めておくことができません」とお話ししました。知識も同様で、知っていることならばすんなり記憶することができるのです。

 

 また聞いている内容に関する知識があればあるほど、理解を深めることができます。つまり「読解力」と「知識量」の両方があれば、話の内容やそれに付随する情報をより正確に記憶することができるのです。

 

 この「知識」は、例えば通訳の仕事であれば事前に資料を読み込み学ぶことで必要な知識を得ることができます。ただし資料にない話が当日突然飛び出すなどということは当たり前にあることなので、「どんな知識も無駄にはならない」「目に入るもの聞こえてくるものすべてを吸収する」という気持ちで常に貪欲に学び続けることが大切です。

 

 以下、私の恩師の言葉です。 

 

 「我々通訳者はね、とにかく何でも知っていなければいけません。普通の人のレベルではダメです。あらゆる分野の専門家と同じレベルの知識、あるいは分からないことがあっても質問できるレベルでなければいけません。しっかり頑張ってくださいね。」 

 

参考:【私が通訳になるまで34】通訳学校と通訳科5(絶体絶命の進級試験)

 

 

✔ 絶対記憶


 私が前出の「相対記憶」に対し「絶対記憶」と呼ぶのは、「言葉を正確に記憶するための力」のことです。この能力は、使われている個々の言葉やその並び方に焦点を当てた「形を記憶するための記憶力」です。

 

 図解の通り「絶対記憶」には以下の2つの能力が当てはまり、この力を鍛えることは「正確な再現(リプロダクション)」の強化につながります。

 

  • 言葉の記憶(語彙・構文の知識)
  • 音の記憶(音の知識と純粋な記憶力)

 

 

✔ 言葉の記憶(語彙力・文法構文力)


 言葉の記憶に必要なのは、言葉の知識です。「どんな単語が使われているか(語彙力)」「それらの単語がどんな順番で並んでいるか(文法・構文力)」など、単語や文章の構造に対する知識があるだけでなく、それを感覚的に使えるレベルまで習得していることが必須条件です。

 

 例えばストレスなく使える語彙が多ければ多いほど使われた単語を似た単語と混同することは少なくなりますし、文法や構文への理解が深ければ深いほど「この単語の後には高確率でこの単語が来る」や「この構文ならこういう形」という風に少し先を読みながら話を聞いて記憶することができるようになります。

 

 

✔ 音の記憶(音の知識・純粋な記憶力)


 音の記憶とはいわゆる「耳コピ」で、必要なのは問題なく話を聞き取れるだけの音の知識と慣れ、そしてそれを音として記憶するための純粋な記憶力です。

 

 ここで「自分はリスニングが苦手だから...」と思う人がいるかもしれませんが、「リスニングが苦手」もまた、文法・構文力、語彙力、知識量、読解力の不足が原因であることが多いのが実情です。そのためあえてここでは「音の知識」としました。

 

 「音の知識」とは、それぞれの単語の発音の仕方や聞こえ方、文章の中での音の高低や強弱に関する知識です。そして意識しなくても耳がそれらの音をとらえられるくらいたくさん話して聞いて、自分の感覚として定着させていることが不可欠です。

 

 例えば音楽をそらで覚える時のように、音の並びを正確に記憶する力。それがこの「音の記憶」です。

 

 

✔ 「記憶力」の意味と4能力の相関関係


 ここまでリテンションの構造とそれぞれの能力について解説してきました。リテンションができないことの問題点が単純に「記憶力」だけではないことがご理解いただけたでしょうか。

 

 ここにあげた4つの能力のうち、純粋な記憶力は音の記憶だけです。ただしどんなに記憶力が良くて「音だけ」を正確に記憶できたとしても、それは通訳のリテンションとしてはあまり意味がありません。

 

 重要なのは「言葉の正確な記憶」「読解による正確な意味の把握」であり、それを「知識」と「音の記憶」でサポートすることでより精度の高いリテンションと通訳をすることです。

 

 

✔ すべてに必要な「瞬発力」と「持久力」


 最後にこの4つの能力すべてに共通して必要な能力についてお話しします。「瞬発力」と「持久力」です。

 

 今回解説した「意味の記憶」「情報の記憶」「言葉の記憶」「音の記憶」どの能力も聞いたその一瞬で威力を発揮して記憶することが必要です。そしてその力を長時間発揮し続けられなければ通訳はできませんから、瞬発力と同時に持久力が求められます。

 

 長時間、正確かつスピーディーに。これはリテンションだけでなく通訳全体に通じることで、これができてこそのプロなのです。

 

 


 

✔ おわりに


 リテンションに悩む方はまず、ご自身が「何が原因でリテンションができないのか」を分析してみてください。そしてその解決策をぜひご自身で考えてみてください。

 

 それでも壁にぶつかってしまった時には、ぜひ私のレベルチェック&学習アドバイスオンライン講座をご活用ください。

 

 このブログやオンライン講座を通じて一人でも多くの方のお悩みを解決できたら幸いです。

 

 

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【About Erika】

職業:英語同時通訳者(個人/フリーランス)

現住所:東京

留学歴:3年(アメリカ)

特技:柔道(初段)、ピアノ(弾き語り)

趣味:料理、お菓子作り、食器屋巡り

楽しみ:正月の箱根駅伝、2か月に1度の大相撲観戦(テレビ)、年に数回の柔道国際・国内大会テレビ観戦、年に数回のブロードウェイミュージカル日本公演、不定期の札幌旅行