【私が通訳になるまで27】柔道と緊張感と通訳

 こんにちは、英語同時通訳者オンライン英語・通訳講師の山下えりかです。 

 

 このブログでも何度か書いている通り、私は小1から高校卒業まで柔道をやっていました。先日英語とピアノの関係の記事を書いた後で改めて考えてみたところ、柔道にもまた今の私の通訳者としての大切な能力を育ててくれた部分があったことに気づきました。ピアノの時と違い誰にでも当てはまる話ではありませんが、今回は柔道での経験が育ててくれた私の通訳者としてのある能力についてお話しします。

 

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 柔道の経験が育ててくれた通訳者として必要な能力、それは「緊張感との付き合い方」です。

 

 通訳の現場は常に緊張感と共にあります。高度な技術と知識を求められるからであったり、スピードと正確さを求められるからであったり、初めての現場の空気に慣れる間もなく仕事をしなければならないからであったり。通訳訓練中もまた先生方が現場さながらの緊張感を全力で醸し出してくれるので、訓練・仕事に関わらず、とにかく「通訳=緊張」なのです。

 

 ちなみにサイマル・アカデミー通訳科でお世話になった先生には、こう言われました。

 

 「我々通訳者はね、緊張感を力に変える特殊能力を身に付けなければいけません。」

 

 その頃にはそれは十分に理解していたつもりでしたが、あえて言葉にされたのは初めてだったので瞬間思考停止した記憶があります。

 

 さて、柔道をやっていた頃の私は、試合では毎回必要以上に緊張していました。一番の理由は父が怖かったからです。まあどこの家庭でも似たようなものだとは思いますが、子供のやるスポーツに親が熱くなってしまうという典型的なケースです。私の実力としては一番頑張っていた小学校高学年の頃に、静岡県の中部地区で優勝、県の大会で3位という程度だったので、決して上を目指せるレベルではなかったのですが、父は常に前のめりでした。父が見に来る試合の時はいつも「ちゃんとやらないと怒られる」という意識があったため、負けたくなくて毎回ガチガチに緊張していました。ちなみに中部地区優勝と県3位は父が仕事で来られなかった試合での結果です(笑)。

 

 一番多かった時期には、毎週日曜日に試合がありました。試合に行けば道場の友達に会えるのでそれ自体は苦ではありませんでしたが、やはり試合は毎回身体がこわばるほどに緊張しました。柔道そのものは好きでしたが試合は嫌いでした。自分が負けて怒られるのも、相手を負かして相手が怒られるのを見るも嫌でした。勝負事にはとことん向かない性分です。自分にはできないことだからこそ、第一線で活躍する選手の試合を見るのは好きです。

 

 通訳訓練時代、失敗が怖くて毎回緊張していた頃、ふと思ったことがありました。

 

 「ああ柔道の試合の時もこんな感じの緊張感だったな」と。

 

 そう思った時、気持ちを切り替えることができました。

 

 「でも違う。これは自分が好きでやっていることなんだから乗り越えられる。」

 

 その頃から「緊張の波に乗る」ことができるようになりました。私の経験では限界ラインギリギリの緊張感は、平常時では考えられないほどに集中力を高めてくれます。この緊張感と集中力の波に乗っている時は耳、頭、口の動きが気持ち良いほどスムーズで、とても良い通訳ができます。これが「本番に強い」の極意だと思いますし、通訳科で言われた「緊張感を力に変える特殊能力」とはまさにこのことだと解釈しています。

 

 ただしラインを超えてしまうとパニックになって収拾がつかなくなるリスクは常について回ります。そのラインをできるだけ引き上げ、緊張のキャパを広げることもまた、通訳者として大切な訓練です。日々の仕事ではできれば緊張せず通訳をしたいと思うこともありますが、質の良い通訳を提供するためには適度以上の緊張感が必要なのもまた事実なのです。

 

 子供の頃ネガティブ体験でしかなかった柔道の緊張感は、通訳でポジティブな緊張感を育てる一因となりました。幼少期にあれだけの緊張感にさらされた経験があったからこそ、通訳訓練の緊張感にもある程度の耐性がありましたし、柔道の緊張感がネガティブ経験だったからこそ、通訳の緊張感をポジティブにとらえることができました。

 

 まあとても他人様にお薦めできる話ではありませんが、通訳とはこれほど緊張と戦う職業であるということだけでもご理解いただけたら幸いです。

 

 

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【About Erika】

職業:英語同時通訳者(個人/フリーランス)

現住所:東京

留学歴:3年(アメリカ)

特技:柔道(初段)、ピアノ(弾き語り)

趣味:料理、お菓子作り、食器屋巡り

楽しみ:正月の箱根駅伝、2か月に1度の大相撲観戦(テレビ)、年に数回の柔道国際・国内大会テレビ観戦、年に数回のブロードウェイミュージカル日本公演、不定期の札幌旅行