AI同時通訳時代の通訳需要と必要スキル(前編)

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 こんにちは、コミュニケーション・ファシリテーター山下えりかです。ご訪問ありがとうございます。 

 

 先日すすきののとあるバーで隣に座ったイベント運営会社の経営者の方から、こんな言葉を聞きました。

 

通訳さんてすごいですよね。

2つの言語を高速で理解して使いこなして伝えて……

本当に尊敬します!

でも最近、通訳さんがいないことも多いんです。

昔はブースを設置して、機械を入れて、通訳さんが入って、

休憩には飲み物を差し入れしたりしたんですけど、

今はQRコードを読み取ってスマホで通訳を聞くのが多くて。

英語と日本語だけじゃなくて自分の言語で聞けるし、

精度も上がって、参加者にも好評なんですよね。

 

 

 このサイトでも以前AI通訳サービスであるポケトークライブ通訳(現 Sentio)のレビューをしました。そしてその当時からポケトークは同システムを使用した会議用の同時通訳サービスを展開していて、最近ではその精度と顧客満足度の高さのうわさも耳にします。先日読んだSentioカンファレンスの導入事例記事では、(ポケトーク側に都合の良いことを全面に押し出す意図があるのはもちろんですが)利用者側からのこんなコメントを目にしました。

 

 

通訳者でもこのレベルに達したことはほとんどないです。

専門性の高い内容でも、完璧な英語であれば、完璧な日本語訳がなされます。

人間より良いと評価できるほどでした。

 

 

出典:日本分子状水素医学生物学会様 〜 Sentioカンファレンスプラン導入事例 〜

 

参考:【AI通訳】現役通訳者がポケトークライブ通訳(同時通訳)を使ってみた感想&デモ動画◆精度と可能性を考える

 

 

 このお2人のコメント見聞きした私の最初の反応は、「ああ、悔しい!」でした。苦労して身につけた技術がこうもあっという間にAIに代替されてしまうなんて、とても悔しいです。本当はこんな話聞きたくない。私の知らないところでやってほしいとも思います。でも、それではダメです。通訳者としてこの時代を生きて行くのならば、アンテナを高く広く張って必要な情報は何でもキャッチして積極的に先を読んで行かなければいけません

 

 ChatGPTが急速に世界に広まってから3年あまり。AIが通訳・翻訳業界に大打撃を与えていることはもはや否定できない事実です。実際になくなっている仕事があるのですから。

 

 AI通訳・翻訳ツールの今後と、それに伴い変化する通訳の需要と求められるスキルについて、今から6年前の2020年の夏に私の予想を共有した記事があります。今読み返してみるとまるで未来予想図のようで、自分でも驚きます。そしてこれを書いた当時よりも今だからこそ多くの人の目に触れてほしい情報なので、今回この記事にところどころ加筆修正&追記して再共有します。特に当時はまだAIではなく「機械翻訳」や「自動翻訳」という表現が主流だったのでそう書いていましたが、今回の再掲載ではその多くを「AI通訳」や「AI翻訳」に書き換えました。

 

 言語の分野に限らず様々な業種に大革新をもたらしているAIとどのように付き合い、「人間だからこそ」のスキルをいかに伸ばし付加価値を身につけて行くか、その参考にしていただけましたら幸いです。

 

 

****再掲載記事はここから****

 

 

オリジナル記事はこちら:AI自動翻訳時代の通訳需要と必要スキル(上)(2020/8/20)

 

 

 前回(AI自動翻訳と通訳のこれから)、前々回(AI自動翻訳で高い精度の英訳をするコツとお手本)と、自動翻訳・機械翻訳についてお話ししました。この2本の記事の中では自動翻訳を使いこなすため、また自動翻訳とうまく付き合って行くためには、相応の英語力が必要だという話をしました。しかしながらこのAI通訳・翻訳が躍進する時代の中での通訳者の位置づけについてはあまり書いていなかったのと、「それなら通訳の勉強はいらないのでは?」と誤解を与えかねない内容だったので、今回と次回の2回にわたり、AI通訳・翻訳時代の通訳と必要とされるスキルについて私の考えをお話しします

 

 最初に断っておきますが、私がここで書く予想は総論です。AI通訳・翻訳が人間にとって代わると私が予想する業務のすべてがなくなるとは私も思っていませんし、個々の案件についてはそれぞれ様々な形で残っていくと思います。そのため「全体的にはこうなるであろう」という話として読んでいただければと思います。

  

 

✔ 通訳需要は「下」と「上」からなくなる


 まずはAI通訳・翻訳の台頭により今後の通訳需要がどのように変化するか、という点です。

 

 「AIの進化によりスキルが低い人の仕事から無くなっていく」というのはどの業種でも言われていることで、通訳も例外ではありません。これは非常にシンプルな話です。

 

 しかしそれと同時に通訳・翻訳業界では、「上」のレベルの仕事も減っていくと私は予想しています。「AI時代に生き残れるのは専門性の高い通訳者だ」という意見もありますが、私はそうは見ていません

  

 

✔ AIが得意とする通訳とは


 私はAIが得意とする通訳、すなわちAIが高精度でできるようになる通訳の条件は次の2点だと分析します。

 

1.発言内容が明確で正確に読み取ることができる(複数の意味を含むまたは複数の意味に解釈できる内容でない)

 

2.訳の多少の不自然さをカバーできるだけの知識(専門知識、英語・日本語の知識など)が聞き手にある

 

 これをもとに、通訳作業をAIと相性の良い内容とそうでない内容に分けて考えたいと思います。

 

 

 

✔ 「専門性」とAIの相性 ◎


 通訳業界の「上のレベルの仕事」とは、「同時通訳」「専門性が高い」「技術と経験が必要」と言い換えることができます。

 

 「同時通訳」については発言内容を読み間違えることがなければAI通訳のスピードはずば抜けていますし、経験は大量のデータの蓄積とそれを実際に使い人間がエラーを修正しAIに学習させることで得ることが可能です。

 

 そしてここで重要なのが「専門性」です。「専門性」とはつまり、「その分野に関する知識、語彙、経験」です。知識と語彙に限って言えば、これはAIの得意分野です。

 

 知識であれ語彙であれ、AIはそれをデータとしてインプットしてしまえば忘れませんし、必要であれば人間のように思い出す努力もせずに瞬時にそのデータを使えます。対訳がはっきりとしている言葉の置き換えは機械の最も得意とするところです。また専門性が高い分野であればあるほど、言葉の裏の意味や行間を読む必要のある表現は出て来ません。AIが誤解なく発言を読み取れるということです。つまりその分野に関する膨大なデータから適切な文脈で言語変換することが高確率で可能なのです。

 

 更には専門性が高い分野の通訳の場合、通訳を使う側にも聞く側にもその分野の専門知識が十分にあることがほとんどです。つまり聞き手は多少不自然な訳であったとしても、聞きながら「こういう意味だな」と脳内で自動修正しながら聞くことが可能なのです。

 

 このように「専門性」とAIの相性は非常に良く、先ほど挙げた「AIが高精度の通訳をするための条件」を2つとも満たしています。このため私は、専門性の高い分野から通訳の仕事がAIに置き換わっていくと考えています。 

 

 

 

【2026/4/30 追記】

 冒頭で紹介した2人のコメントがそのままこの答えと言えます。専門性が高く、発言が整理され意図が読み取りやすい学会のような場面では、AIはその実力を十分に発揮できます。また特別な配慮が必要な機密情報を扱わないのならなおさら、AI通訳導入のハードルは下がりますし、費用や準備にかかる時間&労力という面でもAI通訳が優先されるのも納得です。

 

 

 

✔ 「空気」とAIの相性 △


 とは言え私たちは人間ですから、常に機械が読み取りやすい発言ができるわけではありません。特に交渉事になれば、言葉の裏に本音を匂わせるということは当然あります

 

 確かにAIは空気や行間を読むことはできません。しかしながら例えばAI言葉をそのまま変換して訳したとして、そこから相手の意図を読み取るのは人間の仕事です。そこにAIが入っても入らなくても、相手の発言そのものは変わりません。例えば英語のまま相手の発言が聞き取れた場合でも、場の雰囲気や話の流れ、また相手の語気の強弱などから総合的に判断して、それが言葉通りの内容なのかそうでないかを考えるのは聞き手がやるべきことです。

 

 このため「空気を読む」は「専門性」ほどAIと相性は良くないものの、これは使う側の読解力の問題なので相性が悪いとまでは言い切れません。そのため「△」にしました。ただし訳を聞く側が相手の意図を読み取る自信がないのなら、その際には人間の通訳者を入れるのが正解でしょう。

 

 

 

✔ 「感情」とAIの相性 ×


 「感情」は現時点でAIが最も苦手とするものでしょう。AIの改良と学習が進みAI通訳・翻訳の精度は確かに向上しましたが、そこには機械の限界もあります。

 

 感情の表現方法は人それぞれですから、個々人の喜怒哀楽を的確に表現できる言葉をAIが選ぶのはほぼ不可能だと思います。同じ言葉を使ってもそれにどんな感情を込めるかで意味は変わってしまいます。機械的な言葉の置き換えだけでは伝えることのできないのが人の気持ちですから、ここにはまだAIが入り込む隙は無さそうです。

 

 

✔ 「話下手」とAIの相性 ×(2026/4/30 追記)


  最初に書いた通り、「発言内容が明確で正確に読み取ることができる(複数の意味を含むまたは複数の意味に解釈できる内容でない)」場合AI通訳はうまく機能します。もちろんそれは通訳者も同じです。話し手が話し上手であれば通訳しやすいのは当然のことです。AI通訳の技術を最大限活かすためには、使う側の言語運用能力が高いことが必要なのです。

 

 つまり話者の話が分かりづらいと、AI通訳の精度は低くなります。最近ではAI通訳も「あー」や「えー」といったフィラーは無視して、話者の話を長めに聞いて意図を読み取る技術も向上していますが、まだ限界があるという印象です。話があちこちに飛んだり、何度も言いよどんで説明が分かりづらい話者の場合、AI通訳は聞き手が期待するほどの精度を保つことができません。

 

 話すことが得意ではないという人は一定数存在します。そしてそのような人たちが伝えたいことの本質を見抜き、「そうです、そう表現したかったんです」と言わせられるだけの技術を持つ通訳者は、これからの時代も必要とされると確信しています。

 

 

 【参考記事】 

 

 

✔ これからの通訳に必要なスキルとは


 以上が6年前の私の予想でした。実際には私が思ったよりも早いスピードで様々なことが変化しています。AI通訳の劇的な精度向上は、今まさに通訳業界を揺るがしています。そんな中、今後通訳者を続けて行く上でまた通訳者を目指す上で必要なスキルとはどんなものなのか、次のようにまとめました。

 

  • AI通訳の癖を知る
  • 感情やニュアンスを正確伝えるスキル
  • 話の核心を読み取り再構築するスキル
  • 従来の通訳技術

 

 長くなりましたので今回はここまでにします。次回はこれらそれぞれのスキルとそれが必要な理由、そして現在私の通訳講座を受講されている生徒さんたちの傾向から見える今後の通訳需要についてお話ししたいと思います。

 

 

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